原稿やブログを書いていて、必要に迫られて誰かのイラストや写真を使いたいと思ったことはありませんか。
自分のコンテンツに他者の権利物を掲載するためにはいくつか道筋があるのですが、そのうちの1つで安心して使える方法は「権利の所有者に(条件はいろいろあれど)許可をいただく」もの。断りなく他者のコンテンツを使える「引用」は、様々な条件・ルールがあり、知っていないと正しい引用はできません。一方、権利者に許可を頂ければ、やりとりをした上で掲載できるので、ここまでOKといった線引きがしやすくなります。
ただ、権利者とのやりとりにはいくつかハードルがあります。もっとも根本的なハードルは、連絡先がわからない、SNSで連絡してみたけれど返事がない、利用ルールも書かれていない、というもの。そんな理由で権利者とのコンタクトを諦めた経験は、多くの人がお持ちかもしれませんね。
その「使いたいけれど使えない」を解消する新しい仕組みが、2026年4月1日から始まりました。「未管理著作物裁定制度」です。手続きを踏んで補償金を支払えば、最長3年間、合法的にその作品を使える、文化庁が新たに用意した制度です。
この記事では、コンテンツを使う側の立場でこの制度をどう使えるのか、そして自分の作品を持っているクリエイターが何に気をつけるべきかを解説します。
制度の概要:補償金を払えば3年間使える
未管理著作物裁定制度は、2023年(令和5年)の著作権法改正で新設された仕組みです。施行日は2026年4月1日。文化庁長官の裁定を受け、補償金を支払うことで、最長3年間、対象の著作物を適法に利用できます。
ポイントは「許諾の代わりに、国が利用を認める」こと。これまでは著作物を使うには権利者の許可が原則必要で、これは今も変わりません。ただ、権利者と連絡が取れない、利用ルールが書かれていない、そんな作品については権利者の許可を得たくても得られない。そういう作品を「未管理公表著作物等」として、文化庁が代わりに利用を認める形です。
申請を受け付けるのは「登録確認機関」と呼ばれる窓口。現在は公益社団法人著作権情報センター(CRIC)のみが登録されています。CRICが要件を確認して文化庁に送り、文化庁長官が裁定を下す流れです。利用者は決定された補償金を指定補償金管理機関(こちらもCRIC)に支払えば、利用が始められます。
なぜ新しい制度が必要だったのか
実は似た制度として「著作権者不明等の場合の裁定制度」が以前からありました。新制度ができた後も廃止されず、両者は併存します。
ただ、従来の制度には使いにくさがありました。権利者を探すのに「相当の努力」が必要とされ、事前調査の手間が大きい。文化庁の公式FAQによれば、標準処理期間は約2か月を想定しているとされ、デジタル化された膨大な著作物の利用には、追いつかなかったわけです。
ちなみに、従来制度における「相当の努力」とは、文化庁の規定では具体的に、名簿類の閲覧または検索エンジンでの検索、著作権等管理事業者への照会、そして日刊新聞紙への広告掲載か著作権情報センター(CRIC)のウェブサイトへの7日以上の掲載(1件7,500円+税)といった措置を、すべて実施することとされています。条件は明文化されているとはいえ、実際にやってみると、どこまで丁寧に検索をかければ「相当」と認められるのか、利用したい著作物ごとに判断が割れる場面もありそうです。広告掲載まで必須で実費も発生するので、個人のライターやブロガーが軽い気持ちで踏み出せる手続きとは言えません。
一方で、ネットには個人が作ったイラストや写真、ブログの文章があふれています。連絡先が書かれていない作品、書かれていても返事のない作品、そんな「眠っている」コンテンツを使いたい人も増えました。きちんと対価を払って使いたいのに、誰に払えばいいかすらわからない。そういう声に応える形で、新しい制度が用意されました。
文化庁の広報誌「ぶんかる」では、想定される利用ケースとして次のような例が挙げられています。
- 古いゲームソフトを復刻したいが、権利を持つ会社が休眠状態で連絡が取れない
- 他人のブログで見つけた風景写真を電子書籍に掲載したいが、権利者に連絡が取れない
- 絵画をホームページに掲載したいが、相続で権利が複数人に分かれ、一部の権利者と連絡が取れない
ライターや編集者の仕事でも、引用の範囲を超えて著作物を使いたい場面は意外と多くあります。デザインを発注するときの参考素材、自社サイトのバナーに使う写真、書籍の挿絵に使う古いイラスト。そういった用途で「許可を取りたいのに取れない」という壁にぶつかったとき、この制度が選択肢になります。

具体的な利用の流れ
裁定を受けるまでの手続きは、おおよそ次のような流れです。

まず、利用したい著作物について、権利者の連絡先や利用ルールを探します。検索サイトで権利者のウェブサイトやSNSを調べる、権利者団体や出版社のサイトを確認する、といった作業です。
連絡先が見つからない、または連絡先はわかったので問い合わせたが14日間応答がない。この状態になったら、CRICに裁定申請の手続きを行います。申請手数料は1件につき13,800円。CRICが要件を確認し、適切と認めたものを文化庁に送付します。
その後、文化庁長官が裁定を下します。裁定が決定すれば、補償金の額もあわせて決定。補償金は通常の使用料に相当する額をもとに算定される仕組みで、利用者がCRICに支払えば利用開始です。
弁護士事務所「長崎かもめ法律事務所」が運営するブログ記事「2026年4月開始!未管理著作物裁定制度の注意点と実務の要点」では、文化庁の「裁定の手引き」を引用する形で、新制度の標準処理期間は最短10営業日程度と紹介されています。デジタル化の現場で、時間軸が大きく短縮される意味は小さくないはずです。なお、従来制度にも「申請中利用制度」という早期利用の枠組みがあり、現状ほぼ全ての申請でこちらが利用されているとのこと。両制度とも事前調査の手間や対象範囲は異なるため、用途に応じて使い分ける形になります。
利用者として知っておきたい4つの注意点
この制度は便利な反面、いくつか押さえておくべき注意点があります。
1. 利用期間は最長3年
1回の裁定で認められる利用期間は最長3年です。継続して使いたい場合は、再度申請して新たに裁定を受ける必要があります。
3年というのは、書籍や映像作品を制作する側からすると微妙な長さ。書籍は刊行後も継続的に販売される性質があるため、3年で「期限切れ」になると改訂や差し替えの判断を迫られる可能性も出てきます。継続利用が前提のプロジェクトでは、更新スケジュールの管理が欠かせません。
利用者側が権利をどう管理するかも気になるポイントです。この制度をいくつかのコンテンツで活用し始めると、「どのコンテンツのどの素材が、いつまで使えるか」を一覧で管理する必要が出てきます。複数の作品をまたいで素材を流用するライター・ブロガー個人が、これをスプレッドシートか何かで自前管理するのは正直あまり現実的ではない気がします。書籍を出している出版社や、映像制作会社のように、もともと権利管理のワークフローが整っている組織でないと、この制度をごりごり活用するのは難しそうです。
2. 権利者が現れたら裁定が取り消される可能性
裁定後に権利者が現れて取消しを請求した場合、文化庁は裁定を取り消します。取り消されたら、その時点で利用を停止しなければなりません。
ただし、利用者が権利者と協議してライセンス契約を結ぶ道は残されています。「制度経由で使い始めたけれど、その後ちゃんと契約に切り替えた」という流れもあり得るわけです。
代替の利かない重要なコンテンツでこの制度を使うのは慎重に判断したほうがいいかもしれません。例えば、書籍の表紙や、ブランドのロゴまわりで使うイラストなど、差し替えが効かない場面では、許諾を得られる別の素材を選ぶほうが安全です。
3. 補償金は「使用料相当額」
補償金は通常の使用料に相当する額を考慮して文化庁が決定します。安く済ませる制度ではありません。許諾交渉の代わりに、補償金の支払いで適法利用を認める仕組みなので、相場どおりの対価を払う前提です。
補償金の額に不服があれば、裁定を知った日から6か月以内に増額請求の訴えも起こせます(権利者側からの請求も同様)。
4. すべての著作物が対象ではない
集中管理されている著作物(JASRACが管理する楽曲など)はそもそも対象外。問い合わせ先で利用希望を受け付けていることが明記されている著作物も、権利者の意思が明確なので対象外です。
具体的には、以下のような著作物がこの制度の対象になります。
- 利用ルールや問い合わせ先がどこにも書かれていない
- 連絡先は書かれていたが、問い合わせて14日間応答がなかった
逆に「無断転載禁止」「営利目的でない場合は自由に使ってOK」といった利用ルールが明記されているものは、権利者の意思が確認できるので対象外です。
自分の作品を守りたいクリエイター側はどうすればいい?
ここまで利用者側の話をしてきましたが、ブログを書いている人、イラストを描いている人、写真を撮っている人。つまりライター・編集者・個人発信者の多くは、自分自身が著作権者でもあります。
「知らないうちに自分の作品が誰かに使われてしまうのでは?」と不安に感じる人もいるはず。実際、この制度は「権利者の意思が確認できない」ことを利用要件にしているので、放置していると裁定の対象になりうるわけです。
自衛策はシンプルで、「自分の意思を明示しておく」ことです。具体的には次のような方法があります。
サイトやSNSに利用ルールを書いておく
ブログのプロフィール欄やフッターに「無断転載禁止」「商用利用はお問い合わせください」「個人ブログでの引用は出典明記でOK」など、利用に関するルールや問い合わせ先を書いておけば、権利者の意思が確認できる状態になります。
書く場所について、文化庁の解説では、著作物の周辺(書籍の奥付、CDのパッケージ、動画の概要欄、ホームページ、SNSのプロフィール欄など)でかまわないとされている点も覚えておきたいところ。SNSのプロフィール欄に一言添えておくだけでも違ってきます。
ちなみに僕のブログには「プライバシーポリシー」のページがあり、この中の「著作権」セクションで、利用ルールを定めています。
文化庁の登録システムを活用する
2026年2月26日から、文化庁が2つのWebシステムの運用を始めました。
ひとつは「個人クリエイター等権利情報登録システム」。自分の名前と作品の情報、連絡先や利用ルールを登録できる仕組みです。ここに登録しておけば、あなたの作品を使いたい人が事前調査の段階で連絡先にたどり着けます。
もうひとつは「分野横断権利情報検索システム」。利用者が権利情報をまとめて検索できるポータルサイトです。あなたの情報がここで見つかれば、勝手に裁定制度を利用される事態を防げます。
[要追記:奥野さん自身がこのシステムに登録するかどうか、登録してみての所感など、実体験ベースの一文を入れる]
14日以内に「待って」と返事する
この制度のもうひとつの抜け道として、利用者から問い合わせが来たときに「14日以内に返事をする」というルールがあります。返事の内容は「利用OK」でも「NG」でも、「少し検討するから待ってほしい」でもかまわない。とにかく14日以内に何らかの応答をすれば、裁定制度の対象から外れます。
逆に言うと、メールやDMをチェックする習慣がないと、知らないうちに14日が過ぎて裁定の対象になりうる。問い合わせ窓口を一本化して定期的に確認する運用は、これから少し意識したほうがよさそうです。
後から取消しを請求できる
仮に裁定が下りた後でも、権利者は文化庁に取消しを請求できます。裁定された時点から取消しの前日までの利用料に相当する額は、補償金から権利者に支払われる仕組みです。
つまり「気づかずに使われていた」場合でも、後から救済される道は残されています。ただし、自分の作品が使われていることに気づくには、文化庁が公表する裁定情報を定期的にチェックする必要があります。
制度の本質:「使われない」より「使われたほうがいい」という発想
この制度の根底にあるのは、「許可が取れないから使えない」状態を放置するより、「補償金を払ってでも使ったほうが、文化全体にも、本人にもプラス」という発想です。
文化庁が広報誌で書いているように、ネットには無数の創作物があふれていますが、その多くは「眠った」状態。連絡が取れないだけで、価値があっても二次利用されないまま消えていく作品も少なくありません。デジタルアーカイブの構築や過去作品の復刻といった用途では、この制度の意味は大きいと思っています。
ただし、これは「許可を取らずに勝手に使っていい制度」ではありません。権利者を探す努力をしたうえで、それでも届かなかった場合の最終手段です。
ライター・ブロガーは、この制度とどう向き合うか
以上のルールを踏まえた上での、個人で活動しているフリーライターの僕としての所感です。
ライターやブロガーが何かを伝えるとき、引用の範疇を超えて他者の著作物を使いたいケースが出てくること自体に、私は少し違和感があります。なぜなら、一般的に、他者の著作物を使えば使うほど、その文章は自分ならではのものではなくなっていくからです。
この制度ができたことを「ありがたい」」と捉える前に、まず考えたいのは、引用の範囲内に収めながら自分の考えをいかに表明していくかという話。他人のイラストや写真や文章を借りてきて並べることでしか伝えられない記事は、そもそも自分が書く意味があるのか、というところに立ち戻りたい気がしています。
この制度がカバーするのは、書籍や映像作品の復刻、研究目的のアーカイブ化、企業の広報物など、引用では足りない明確な必要性がある場面です。ライティング・編集の仕事の大半は、引用の範囲で十分に書けるはず。制度を知っておくことと、頼りにすることは別の話だと思っています。
加えて先ほど書いたように、3年という時限的な利用許可を複数のコンテンツで管理するコストもばかになりません。個人のライター・ブロガーがこの制度を頻繁に使うのは、原稿の独自性という意味でも、運用の手間という意味でも、あまりおすすめできないというのが私の結論です。
参考資料
詳しい情報は、文化庁の公式サイトで確認できます。私の記事との違いがあった場合、それは執筆上のミスで、文化庁の情報が正しいです。
- 文化庁「未管理著作物裁定制度」
- 文化庁「著作権者不明等の場合の裁定制度についてよくある質問」
- 文化庁広報誌「ぶんかる」 解説記事
- 個人クリエイター等権利情報登録システム
- 分野横断権利情報検索システム
- 長崎かもめ法律事務所「2026年4月開始!未管理著作物裁定制度の注意点と実務の要点」
申請手続きの詳細は、文化庁の「裁定の手引き 概要版」と「裁定の手引き(令和8年3月改訂版)」がいちばんわかりやすくまとまっています。実際に申請を考えるときは、まず概要版に目を通すのがおすすめです。
この記事の筆者は、ライター・ブロガーがこの制度を頻繁に活用することについて、どのような立場をとっている?